「トロイメライ」は、ベートーヴェン誕生の40年後の1810年に生まれたロベルト・シューマンの28歳の時の作品です。奥さんとなるクララと結婚する2年前のことで、シューマン自身もこの曲集をかなり気に入っていたようです。クララに送った手紙にも「君もきっと喜んでくれるだろう」と書いているくらいです。
トロイメライは、13曲からなる「子供の情景」の第7曲目であり、フランツ・リストをも感動させたと言われています。トロイメライの訳である「夢、夢想」という言葉の通り、幻想的で、ゆったりとした空間に包まれるような曲に仕上がっています。シューマンは後に、子供用の学習ピアノ曲「子供のためのアルバム」や「子供のための3つのピアノソナタ」などを作曲していますが、この「子供の情景」は、子供のための曲集というよりは、過ぎ去った子供時代の心を描いた大人のための曲集になっています。
トロイメライのまどろむようなメロディーは、大人だけでなく、多くの子供をも魅了しています。実際、リストはシューマンへの手紙の中で、娘にねだられ、週に2,3回何度も何度も繰り返し弾いてることを伝えています。
ちなみに、シューマンの奥さんであるクララは、シューマンが師事したヴィークの娘です。シューマンが18歳、クララが9歳の時に出会い、シューマンが住み込むようになってからは兄妹のように過ごしたと言われています。その後、ヴィークに弟子入りしていた別の女性とシューマンは付き合ったものの破局し、いつしかシューマンとクララは恋仲になりました。しかし、その交際は順調ではなく、二人の想いに気が付いたヴィークの猛反対により会えない日々が長く続きました。その間もシューマンは曲をクララに送り続け、そして、クララがそれに応える形で演奏をし、熱愛の末に結婚となったようです。
そんな結婚2年前にクララに送ったシューマンの気持ちを思い起こしながら、ゆったりとピアノを弾くのも大人ならではの味わいかもしれません。